第一篇 始まりの日に
著者:shauna


 昔々・・フェナルトシティという街におじいさんおばあさんがいました。

 ある日・・2人は海岸で怪我をしている青年を見つけました。

 おじいさんとおばあさんの手厚い看護でその青年はみるみる良くなっていきました。

 しかし、突然・・邪悪な怪物が島に攻めてきたのです。

 島はたちまち・・怪物に飲み込まれました。

 と・・その時・・・

 おじいさんとおばあさんの目の前で青年の姿はみるみる変わって行きました。

 青年はこの世界に古くから存在する・・黒い狐の妖(あやし)だったのです。

 黒い狐は天空から仲間を呼び寄せました。

 彼らは邪悪な闇を追い払う力を持ってきてくれました。

 それは・・・”水の証”という宝石だったのです。

 島には平和が戻りました。

 それからというもの・・・水の証があるこの島に黒き狐は度々立ち寄るようになりました。

 この島が怪物に襲われることは二度とありませんでした。


 ※     ※      ※


 時刻はすでに深夜の2時を回ろうとしていた。
 
 場所はフロートシティの国立図書館。
 
 こんな時間になればそんな場所にいるのは警備員ぐらいなものである。
 
 そして、この日の担当警備員ロビン・ゴールドウィンはいつものように懐中電灯を片手に図書館を巡回していた。
 
 長い栗色のショートヘアーやメガネをかけた童顔にオレンジのローブという姿から彼はよく女性と勘違いされやすいが、それでも彼はれっきとした男だ。
 
 ただ・・ちょっと怖がりの・・・・
 
 「うぅ〜・・・怖いな〜」
 
 自分の足音だけが響く図書館を背筋を丸めながらゆっくりと巡回していく。
 建物も古いし、なにより古書が大量に納められたこの図書館はただでさえ何か出ても不思議じゃないという雰囲気を醸し出しているというのに・・・。
 ただ、この図書館の夜間巡回は魔道学会の新人魔道士の義務である。魔道学会に入所して一年目の新人はなにかと雑用のようなことが多い。
 特に彼のように何故に学会に所属出来たのか分からない、魔法剣士などはとりわけ・・・。
 それに、彼だけでは無く試験を受けて入ったばかりの新人は基本的に使い勝手のいいパシリのような気がする。
 でも、Dランクの1万リーラなんて給料としては少なすぎるし、こんな仕事でもしなければ食べていくことすらできないのだ。
 そこで、魔道学会では”魔道学会所属の高位の魔道士”という肩書と共にこういう魔法を役立てたバイト的な仕事を斡旋してくれるシステムが存在する。
 幸いにも図書館の夜間警備は時給150リーラと中々の待遇である。
 生活費を稼ぐためにもこれは意外と良い手段だった。


 静まり返った図書館をロビンは一人で歩いていく。

 歴史書・・文芸書・・小説の子―名を通り過ぎ、やがてロビンは自分が好きなコーナーへと立ち寄った。

 絵本のコーナーである。

 絵本は本当にすばらしい文化だと思う。

 絵を見てるだけで幸せな気分になれるし、ストーリーも稚拙な中に奥深いモノが隠されていることもある。この世の審理を探求する魔道士としては実に興味深い・・もとい面白いものだと思う。それに加えて、自分自身が副業として絵本作家をしている為ということもあるわけで・・・参考資料として数冊借りて帰ることも少なからずあった。
 
 しかしながら夜半ともなるとやはりそこも不気味なもので・・・
 
 さっさと通り過ぎて事務所で熱いココアでも飲もうと思い踵を返した時だ。
 
 ―カタンッ!!―

「ヒッ!!」
 
 思わず声を上げ物音がした方向を懐中電灯で照らしてみる。
しかし、そこに人の姿は確認できなかった。
誰もいないのに音がする。

「ポ・・ポルターガイスト!?」

身を強張らせ、ロビンはひたすらに辺りを懐中電灯で照らした。

すると・・・・

窓枠の所・・・

締め切ってあるはずの天窓が開いている。

そして・・そこから覗いていたのは・・・・・


真っ白な長い髪の毛だった。


「で!!出た―――――――――!!!!!」

ロビンは大声でそう叫ぶとそのまま気を失ってしまった。



白い髪の女は外の白い馬に乗って走り去る。

途中から黒馬にのった男が並走した。

黒い髪の男だ。

「首尾は?」

男が訪ねる。

「上々。」

女が答えた。

手に持ったハードカバーの古い本を男に手渡す。

「流石だな・・・」
「どうも・・・」

ニヤリと笑う男に対して女はシレっとした態度で答えた。

「何だ?機嫌が悪いな・・。」
「だって単なる御伽話でしょう?」
「そうかな?だが、実際に“水の証”は実在している。」

馬はまっすぐに崖へと向かって行く。そして崖の柵を飛び越し、そのまま海へと落下した・・。

―バサッ―という心地の良い音と共に翼が広げられる。

気が付けば2人は空を飛んでいた。
白と黒の天馬に跨って・・・月を背にして2人は飛行を続ける。

「そして・・物語には隠された続きがある。」

男がそう呟いた。

「そんなのどうでもいいじゃない。」

女がはっきりと答えた。

「宝石が見つかれば私はそれでいいの・・・」
「ククッ・・」

女の答えに男が笑う。
「宝石よりももっと凄いものが見つかるはずだ・・。」

2頭の天馬は風を切ってやがて海上に出た。
そのまま月明かりに煌めく海の上をしばらく飛行。
やがて地平線の向こうに一つの町が姿を現す。

「見えた・・。」

男がそう呟いた。

「あれが・・・・」
「フロート公国の水の都“フェナルトシティ”だ。」

2人は軽く微笑んだ後にそのまま街の方向へと消えていった。








―蒼き惑星(ラズライト)歴1901年・・・水の月の24日―

 最初はほんの思い付きだった。
 2人で旅をするようになってから約3ヶ月が過ぎようとしたある日。

「ファルカス!!飼い主見つけてあげようよ!!このままじゃこの子、死んじゃうよ!!」
 
 道中の道の脇に倒れていたリスとキツネを足して二で割ったようなモンスター“野狐(ヤコ)”を見つけ、それをサーラが一時的にでも飼おうと言ったことから話は始まる。

「ダメだ!!」

 当然、ファルカスは反対した。

「なんで!?」

 サーラが聞き返す。

「そんなもん連れて旅が出来るか!!何時、モンスターに襲われてもおかしくないってのにそんなの庇いながら戦うなんて俺はごめんだぞ!!」
「ひっどーい!ファルの人で無し!!」

 サーラは必死に抗議するがファルカスにだって言い分があった。
 もちろん、先程言った理由もある。しかし、野狐というのはとにかく恐ろしいのだ。というのは、稚拙な言い方だが、野狐は今後どちらかのモンスターへと進化するのである。
善弧(ゼンコ)か、あるいは妖弧(ヨウコ)かに・・・・
 それはとてつもなく不安定でどういう原理でどちらになるのかが分かればそれこそ魔道学会でダブルクラスアップ出来る程のレポートが書けるとも言われているぐらいに危ういのだ。
 善弧になってくれれば最高だ。商売繁盛、健康安泰、子孫繁栄など様々な特典が付いてくる。
しかし、一方で妖弧になった時は・・・・下手をすると街一つが滅びかねない程、強力で危険な化け物になってしまうのだ。
 善弧は神族。妖弧は魔族。
 どちらになるかなんてファルカスには当然知る由もないが、触らぬ神に祟り無しという言葉もある通り、できるだけ関わり合いにならないに越したことはない。
 だからこそ、ファルカスは提案したのだ。
 連れていくなと・・・
 それに、放浪癖があるサーラならこのぐらいのことを知っているはずなのだが・・・・
 「ダメだよ!!」
 あまりにも強い否定にファルカスも少し身を引いた。
 「サーラ・・・」
 「ファル。私、医者だよ。医者が行き倒れてるモノを助けないなんて出来ないよ・・。」
 もちろん、サーラの言葉は強く理解できる。
 でも・・・その前に危険という事実が横たわっている以上、できれば連れていきたくない。
 だからこそ提案をしたのだ。
 次に目指していた街。『フェナルトシティ』でこの時期に開催されるゴンドラレース。に2人で出て順位が良かった方の意見を尊重しようと・・



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